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日本の社長交代

今年1月、昨年末に芸能界を引退してプロデュース業に専念していた元男性アイドルデュオ「タッキー&翼」の滝沢秀明氏(36)が、新会社『ジャニーズアイランド』の社長に就任したことが報じられ話題になりました。

 同社は、日本最大規模の芸能プロダクションとしてメディアに大きな影響力を持つ「ジャニーズ事務所」の関連会社であり、ジャーニーズ・グループ総帥であるジャニー喜多川の後継者として指名された滝沢氏の手腕が(いよいよ)試される時がやってきたということでしょう。

 報道によれば、まず、滝沢氏自身が演出を務める第1弾、新橋演舞場4・5月公演『滝沢歌舞伎 ZERO』に出演するジャニーズJr.の人気ユニット「Snow Man(スノーマン)」のグループ改編を行い、来年3月に横浜アリーナで開催するSnow Man、SixTONES(ストーンズ)単独コンサートのプロデュースを手がけることになるということです。

 これまで長年にわたりジャニーズ事務所を率いてきたジャニー喜多川氏といえば、1931年(昭和6年)生まれの御年88歳になる芸能界のカリスマです。

 1962年に、自身が結成させた野球チームのメンバー4人の少年による「ジャニーズ」をプロモーションして以来、フォーリーブス・郷ひろみ・たのきんトリオ・シブがき隊などをアイドル界のトップに導きました。1990年代以降はSMAPをマルチタレント・アイドルとして発展させ、そこを足掛かりに、TOKIO・V6・KinKi Kids・嵐・関ジャニ∞などを現在の姿に育て上げています。

 ジャニーズ事務所については、近年(稼ぎ頭のSMAPなどの)所属タレントの処遇を巡って事務所の分裂や経営陣の不協和音が伝わってくるところですが、(こうしたさ中での)ビッグネームの後継者指名ということになればそのプレッシャーはさぞかし大きいことと思います。

 滝沢氏に関しては、これまでテレビの画面を賑わすアイドル・タレントとしての姿ばかりを見てきましたが、(ジャニー氏が一押しした氏が)これから経営者としてそのような才覚を発揮するのか楽しみにしている人も多いでしょう。

 さて、ジャニーズばかりでなく、この時期の日経新聞をめくると「新社長就任」の写真付きの記事が毎日のように目に入ります。

 よく読むと、その人事は時に創業者の子弟であったり、副社長や専務からの(ある意味「順当」な)昇進であったり、「○○人抜き」と言われるような大抜擢だったり、金融機関からの「天下り」だったりするわけですが、いずれにしても外部から乞われて連れてこられた「プロ経営者」が経営を任されるケースはそんなにメジャーではないことがわかります。

 「社長交代」と言えば、多くの場合一部の経営陣などにより密室で決められ、普通の社員たちは(そして株主たちも)その経緯を知る由もありません。結果を聞いて、後から「こういうことだったんじゃないか…」云々と様々な噂が社員の口の端に上るのが常でしょう。

 しかし、経営環境が大きく変化するこれからの時代、「社長交代」は企業経営に変化を促す貴重な機会であることは言うまでもありません。

 これまでの経営を引き継ぐのか、それとも大きく方針を変えるのか。そんな重要な社長交代に関して、4月11日の日本経済新聞に「社長たちの群像」と題する興味深いコラムが掲載されていました(経済コラム「大機小機」)。

 株主総会を控えたこの時期の社長交代の発表は(いわば)春の風物詩で、就任記者会見では「前任の社長から『次は君頼むよ』と言われました」とのコメントが並ぶということです。そして、彼らのこうした姿は「悲壮感のある経営者」というよりも、「成功したサラリーマンの終着点」を見るようだと記事は説明しています。

 こうして選ばれた社長のOBたちが「この恐るべき同質集団」と呼ばれる経済団体を構成する。その大多数が、男性で日本人で60代で転職経験がない。要するに「純粋培養組」とも言える彼らには、多様性が決定的に欠けているというのが記事の指摘するところです。

 そして、これに準じるのが「派遣社長」とも言える社長の集団だと記事はしています。

 年功序列社会の中で近い年次の人物が社長に選ばれると、その周りの「社長候補者」が関連会社や子会社の社長として赴任する。そこに、専門性やその会社経営への適性は関係ないということです。

 さらにこの集団には、「社長」の肩書を持ちながら自らを含む主要人事の最終決定権がないという特性があると記事は記しています。派遣元の社長から「君、○○君と交代」と言われると、そこで彼はその任を終える。こうして母体組織の継続的影響下にとどまるこの集団は、「従属社長組」と言えるということです。

 一方、最近増えてきているのはそうした既定路線や所属企業のくびきから離れ、いわば、自らの意思でかつて所属した「藩」から脱して活躍する経営者たちだと記事は説明しています。

 それまで長年働いてきた企業グループ以外の会社から社長に招かれ、「プロ経営者」と言われる場合もある。彼らを名づければ「脱藩浪士組」とでもいうところでしょうか。

 他国では当たり前の情景でも、エグゼクティブ・サーチ会社によると、日本の企業の役員は「その会社では優秀だが、一歩外に出ると役に立たない人がほとんど」で、こうした人材はまだ希少だということです。

 無論、その他にも「起業家社長組」の存在を忘れるわけにはいきません。自ら事業を起こし、大きなリスクを取ってその事業を成功裏に成長させた社長たち。この集団こそが本物の経営者軍団であり、時代を進めるリーダーたちであると記事も説明しています。

 いま、日本の産業は米国のGAFAや中国のBATと呼ばれる企業群に大きく後れをとってしまっている。

 このことは、我が国の社長が「純粋培養組」と「従属社長組」が多数派であるのに対し、世界で先行する企業群の社長たちは、リスクを恐れない「起業家社長組」か「脱藩浪士組」であることと無関係ではないだろうというのが記事の認識です。

 確かに、「失われた…」と評されるような出口の見えない長期の低迷が続く局面では、リスクを取ってこそ経営者としての面目が立つというものでしょう。

 そういう意味で言えば、日本企業の経営者への総合的な評価として、先進性やイノベーションへの貪欲さが失われ企業活動に対する経営者としての大胆な切込みが不足しているといわれても(確かに)仕方がないのかもしれません。






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